Vol.30 細胞内液・細胞外液の存在 グリセリンローディングとは?


20150821

「足がつりやすい」、「バテやすくなった」など、運動パフォーマンスがなかなか改善されない。そんな悩みを抱えているアスリートも多いのではないでしょうか。
今回は、運動パフォーマンス改善の一つの手法として、確立されている「グリセリンローディング」という水分補給法についてご紹介していきます。

グリセリンローディングとは

グリセリンローディングは、一定の濃度に水で薄めた「グリセリン」体内に取り入れることにより、細胞内に水分を効率よく取り込むことができ、細胞内液として長時間、水分を保ちやすくすることができる水分補給法のことです。

1970年代に中長距離ランナーとしてオリンピックでも活躍したデビッド・マーティンとピーター・コーの共著「中長距離ランナーの科学的トレーニング」(大修館書店)などをはじめとした書籍などでも、グリセリンローディングが紹介されています。

一般的な水分補給法とグリセリンローディングの違い

運動パフォーマンスが低下する原因の主な原因として、「脱水」があげられます。
スポーツの現場に携わる方々であれば、すでにそのような知識もあり、脱水状態を避けるべく、積極的な水分補給をされているかと思いますが、「競技の途中で足がつる、倦怠感が出る」という声があとを絶ちません。

その原因は、運動中に失った水分量をきちんと補い切れていないことや、競技によっては水分補給の機会が限られていることなどが挙げられます。
そして、着目すべきもう一つの原因として、摂取する水分そのものが適切でないことです。
それでは、一般的な水分補給方法とグリセリンローディングの違いについてみていきましょう。

一般的な水分補給法

脱水予防、熱中症予防というと、電解質を含んだドリンクを摂取することが推奨されています。そのため、暑い時期になるとミネラルウォーターではなく市販されているスポーツドリンクを飲む人が多く見受けられます。

一般的なミネラルウォーターやスポーツドリンクは、体内に入ると直接血管に吸収され、血液量を増加させますが、血液は細胞外液(細胞の外に存在する水分のこと)のため、細胞内に留まることなく、すぐに尿や汗となって体外に排出されてしまいます。これは、腎臓が血液量の増加を察知し、通常レベルに戻すために利尿作用が働くからです。
このとき、細胞内液(細胞の内に存在する水分のこと)が細胞外液に変わり、体内の水分を補いますが、変わりに細胞内液はどんどん減っていってしまい、効率よくエネルギーを生み出すことができなくなります。そして、やがては脱水の状態になり、足のつりや倦怠感、熱中症を引き起こす原因にも繋がってしまうのです。

また、スポーツドリンクの中には、多くの糖分を含んでいるものもあり、血糖値を上昇を引き起こします。血糖値が上昇すると、細胞内液から水分が血液中にどんどん出され、結果的に脱水状態になってしまったり、急激に上がった血糖値を下げるために、インスリンが大量に分泌され、インスリンショックを引き起こし、激しい倦怠感を引き起こしてしまうこともありますので、注意が必要です。

グリセリンローディングを用いた水分補給法

グリセリンローディングでは、グリセリンを含んだ水分を補給することにより、細胞外液から細胞内液(細胞の中に存在する水分のこと)に水を集めます。

グリセリンには、簡単に言うと「水が大好き」という性質を持っていて、水を引き込む力に非常に優れています。身近な例でいうと、保湿効果を謳った女性の化粧品にも入っています。

体内に取り入れたグリセリンが、リンパ管から首の後ろにある脊柱核を通じて体内に吸収され、そこから静脈に入っていきます。細胞膜には、グリセリンが細胞内外を行き来できる「グリセロポリン」という通り道があるため、血液から細胞内に入っていくことができます。
細胞内に入ったグリセリンは、アクアポリンを通じて細胞外の水分を内側に引っ張り込む働きをします。そのため、グリセリンを含んだ水分を補給することにより、細胞内に水分を補給することができるのです。

また、一般的な水分補給法とは異なり、グリセリンローディングでは、細胞外液に水分を溜めないので、利尿作用が強く働くこともなく、長時間、体内に水分を保つことができます。つまり、グリセリンローディングは、運動パフォーマンスの低下を防ぐだけなく、熱中症対策方法などにも活用できる水分補給方法と言えるでしょう。

グリセリンローディングの効果検証

デビッド・マーティンとピーター・コーの共著「中長距離ランナーの科学的トレーニング」(大修館書店)の翻訳者である筑波大学大学院人間総合科学研究科運動生化学研究室の征矢英昭先生に協力をお願いし、グリセリンローディングが運動パフォーマンスに与える影響を研究していただきました。
すでに1987年の研究で、体重1キロあたり1.0~1.2グラムのグリセリンと20~26ミリリットルの水分を運動の約2時間前に摂取すると、体水分量が300~700ミリリットル増加し、水のみを摂取した場合と比べて高体水分状態が4時間以上持続することが報告されています。(体育の科学Vol.54 No.10 2004「暑熱下運動時の脱水を防ぐグリセリンローディング」西島壮・征矢英昭より)それでは、どのくらいのグリセリン濃度で、どのように摂取すれば効果的なのか。それを、改めて検証していただいたのです。

その結果、はじめに高濃度のグリセリン飲料を摂取し、その後多量の水分を摂取するグリセリンローディングによる水分摂取が、もっとも体重の増加と尿量の減少が見られ、保水効果が高いことが確認されました。つまり、最初にグリセリンを摂取して細胞内に貯蔵させ、あとから多量の水分をとって、細胞内にあるグリセリンに水分を引き込ませることが、実験でも確認できたのです。

さらに、中距離選手6名の協力のもとで行った実験では、グリセリン飲料摂取群(グループA)とプラセボ飲料摂取群(グループB)に分かれてもらい、高温環境下(室温30度、湿度50パーセント)で70分のペダリング運動を行ってもらいました。運動時、体重の減少量が体重の2パーセントを超えないように水分補給することが推奨されていますが、この実験で運動後の体重減少量は、グループAが890グラム(体重の1.4パーセント)、グループBが1680グラム(体重の2.5パーセント)でした。これにより、グリセリンローディングに脱水軽減(もしくは遅延)効果が期待できることが確認できたことになります。

ただ、もちろん留意点もあります。筑波大学の研究では、少数ではあるものの、軽い頭痛や目のかすみを訴える被験者もいました。一時的なもので60分後には正常に戻ったため、摂取から運動まで90分ほど安静時を確保することで対処が可能とされています。また、肥満、腎疾患、循環系疾患、肝臓疾患の心配がある人や妊婦さんはグリセリンローディングを行うべきではないといわれています。

「+α WATER」でパフォーマンスを引き上げる

「+α WATER」は、運動パフォーマンスを高める最適な分量の「グリセリン」を含んでいます。さらにアスリートに欠かせない成分を配合し、運動パフォーマンスを向上させるのに最適なスポーツ飲料としてお使いいただけます。
中でも、L-グルタミンは、筋肉が体内でタンパク質に分解されるのを抑える働きがあり、筋肉維持や体力維持、免疫力の向上、疲労回復、体脂肪の抑制、成長ホルモンの安定した分泌などの働きも期待できます。

プロアイスホッケーチーム・王子イーグルス(北海道苫小牧市)の選手たちに使っていただくことにしました。アイスホッケーは5月から8月の暑い時期にシーズンオフとなり、この期間はかなり過酷なトレーニングを行います。実際にプロアスリートたちがグリセリンローディングを採用すると、どんな「実感」が出てくるか、ぜひ聞いてみたかったのです。

すると、シーズンオフのトレーニングを終えた選手から「とても効果的。足がつらない」という実感を聞くことができました。さらに「トレーニング後半の伸びがいい」「筋肉がパンプアップして、いい具合にハリを感じられる」という声も聞こえてきました。

さらに、家庭婦人バレーチーム・世田谷ウィングのみなさんにもグリセリンローディングを採用していただいたところ、同じく「足のつりがなくなった」という感想をいただきました。また、「子供が風邪のときに飲ませたら回復が早くなった」という声もありました。

プロアスリートの場合はドーピングの問題が気になるかと思いますが、日本アンチ・ドーピング機構に確認したところ、体重1キログラムあたり1.0~1.5グラムのグリセリンを摂取するとドーピングに引っかかるということでした。体重60キロであれば、60~90グラム摂取するとNGになります。当社で作っているグリセリンローディングを採用した「+α WATER」は、1本のスティックを500~1000ミリリットルの水に溶かして摂取するものですが、1本あたりのグリセリン含有量は0.4グラムです。スティックを一気に150本くらい飲んだらアウトということになりますが、一日に使う量はせいぜい1~2本。まったく心配いらないと言っていいレベルでしょう。

脱水予防、熱中症予防という視点以外に、良質な筋肉をつけるためにも、正しい水分補給の知識はアスリートにとって欠かせないものです。また、かつて水分補給が禁止されていた箱根駅伝でふらふらになっている選手がいたことでもわかるように、冬であっても汗、呼気、乾燥による蒸発などで脱水症状になることがあります。季節を問わず、競技を問わず、スポーツ活動を充実させるために、ぜひグリセリンローディングに着目していただければと思います。

取材・構成 岡田真理